はじめに
「楽天やAmazonの手数料は高いし、競争も激しい。いっそモールを辞めて、自社ECサイト一本でやっていきたい!」
EC事業のコンサルティングをしていると、こうした「脱モール」という言葉を、まるで最終ゴールであるかのように語る店長様や経営者様に、数多くお会いします。
確かに、高い手数料や厳しい規約、自由の利かない販促活動など、ECモール運営の悩みは深刻です。その苦しさから「離れたい」と考えるのは、至極当然の感情でしょう。
しかし、私たちはあえて問いたいと思います。
「本当に、安易に『脱モール』を目指してしまって、大丈夫なのでしょうか?」
この記事では、15年以上のEC運営経験を持つ私たちが、多くの事業者が陥りがちな「脱モール」という考え方の危険性と、EC事業者が本当に目指すべき「モールからの自立」の具体的な実践方法をお伝えします。
楽天市場の手数料は本当に高いのか?【2025年最新データ】
まず、楽天市場で実際にどれくらいのコストがかかっているのか、正確に把握しましょう。
楽天市場にかかる主な費用(2025年版)
1. 月額出店料(固定費)
| プラン | 月額料金(税込) | システム利用料率 |
| がんばれ!プラン | 27,500円 | 3.5〜7.0% |
| スタンダードプラン | 71,500円 | 2.0〜4.5% |
| メガショッププラン | 143,000円 | 2.0〜4.5% |
2. その他の必須費用
- 楽天ペイ利用料:2.5〜3.5%
- ポイント原資負担:1.0%(必須)
- 各種システム利用料:0.1%
- 広告費(RPP等):売上の10〜20%が一般的
実際のコストシミュレーション
【例】月商300万円のショップ(がんばれ!プラン)の場合
- 月額出店料:27,500円
- システム利用料(5%):150,000円
- 楽天ペイ利用料(3%):90,000円
- ポイント原資(1%):30,000円
- 広告費(15%):450,000円
- 合計:約747,500円(売上の約25%)
商品原価が50%、その他経費が10%とすると、利益率はわずか15%。ここから人件費や配送費を引くと、実質利益は10%以下になることも珍しくありません。
この数字を見れば、「楽天の手数料は高い」と感じるのは当然です。
「安易な脱モール」が危険な3つの理由
しかし、だからといって「明日からモールを辞めよう」と考えるのは、極めて危険です。
理由1:ECモールの圧倒的な集客力を失う
楽天市場やAmazonには、購買意欲の非常に高いお客様が毎日何千万人も訪れています。
ECモールに出店することは、いわば「銀座の一等地や、巨大な駅前商業施設に、自分のお店を構える」ようなものです。高いテナント料(=手数料)を払う代わりに、何もしなくても店の前を多くの人が通り過ぎてくれる環境が手に入ります。
主要ECモールの月間利用者数(2025年推計)
- 楽天市場:約5,500万人
- Amazon:約5,000万人
- Yahoo!ショッピング:約2,500万人
「脱モール」とは、この一等地から、何の準備もなしに、人通りのない裏路地にいきなり店舗を移転させるようなものです。
理由2:自社ECでの集客コストが想像以上に高い
「自社ECなら手数料がかからないから利益率が上がる」という考えは、半分正しく、半分間違っています。
自社ECでの集客にかかるコスト例
- Google広告:クリック単価50〜500円
- Instagram広告:クリック単価30〜300円
- SEO対策:成果が出るまで6ヶ月〜1年
- インフルエンサー施策:1投稿5〜50万円
モールでは「出店料+手数料」でアクセスが得られましたが、自社ECでは集客コストを自分で負担しなければなりません。実際に、多くの事業者が「脱モールしたら売上が半減した」という経験をしています。
理由3:ブランド力がない段階では信頼されにくい
お客様の視点で考えてみてください。
- 楽天市場の知らない店:「楽天だから安心」と思って購入できる
- 全く知らない自社EC:「本当にこのサイトで買って大丈夫?」と不安になる
ECモールという「信頼の傘」の下で商売をしていたことに、多くの事業者は気づいていません。
本当に目指すべきは「脱モール」ではなく『モールからの自立』
では、手数料地獄から抜け出す道はないのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。私たちが15年以上の経験から導き出した答え。それは「脱モール」という短絡的な行動ではなく、『モールからの自立』という状態を達成することです。
「脱モール」と「自立」の決定的な違い
| 項目 | 脱モール | モールからの自立 |
| 考え方 | モールを辞めることが目的 | モールに依存しない状態を作る |
| モール出店 | 撤退する | 戦略的に活用し続ける |
| 自社EC | 一本化する | 利益の柱として育てる |
| リスク | 売上激減の可能性大 | 安定した事業構造 |
| 最終状態 | 選択肢を失う | 選択の自由を得る |
「自立」とは何か?
仮に明日、ECモールがなくなったとしても、あなたの事業が揺らがない強固な基盤(=利益率の高い自社ECサイトと、独自の顧客リスト)を持っている状態です。
この状態を達成して初めて、ECモールは「依存せざるを得ない存在」から、「自社の戦略に合わせて、有効活用できる数あるチャネルの一つ」に変わるのです。
続けるも、辞めるも、あなたの自由。その選択権を持つことこそが、真のゴールです。
【実践編】モールからの自立を達成する5ステップ
では、どうすれば「自立」できるのか。私たちが実際にクライアント様と実践し、成果を出してきた具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:現状の利益構造を正確に把握する
まず、感覚ではなくデータで現状を把握します。
必ず計算すべき指標
- 実質的な手数料率
- (月額固定費 + システム利用料 + 決済手数料 + ポイント原資)÷ 売上高
- 広告費率
- 広告費 ÷ 売上高
- 実質利益率
- (売上高 – 原価 – モール手数料 – 広告費 – その他経費)÷ 売上高
ワークシート例
月間売上高:300万円
商品原価(50%):150万円
モール手数料(10%):30万円
広告費(15%):45万円
その他経費(10%):30万円
————————
実質利益:45万円(15%)
この数字が10%を切っている場合は、早急な対策が必要です。
ステップ2:ハイブリッド戦略で役割を分ける
私たちが提唱する「ハイブリッド戦略」の核心は、各チャネルの役割を明確に分けることです。
チャネル別の役割設計
| チャネル | 役割 | KPI | 許容利益率 |
| ECモール | 新規顧客獲得の広告塔 | 新規顧客数 | 5〜10% |
| 自社EC | リピート購入・利益確保 | リピート率・利益額 | 25〜35% |
具体的な使い分け例
楽天市場で売る商品
- 新商品(認知度を上げたい)
- 低単価商品(購入ハードルが低い)
- ギフト需要のある商品(楽天ポイント経済圏との相性◎)
自社ECで売る商品
- 定期購入・サブスクリプション
- 高単価商品(利益率重視)
- リピート購入が多い消耗品
- カスタマイズ可能な商品
ステップ3:自社ECを構築する(3ヶ月で稼働)
推奨プラットフォーム:Shopify
初期費用を抑えながら、本格的な自社ECを構築できます。
| 項目 | Shopify | 楽天市場(比較) |
| 月額料金 | 3,000円〜 | 27,500円〜 |
| 決済手数料 | 3.4%〜 | 2.5〜3.5% |
| システム利用料 | なし | 2.0〜7.0% |
| 実質コスト | 売上の約5% | 売上の約15% |
3ヶ月での構築スケジュール
1ヶ月目:基盤構築
- Shopifyアカウント開設
- デザインテンプレート選定
- 決済・配送設定
- 主力商品10点の登録
2ヶ月目:コンテンツ整備
- 全商品の登録完了
- 「私たちについて」ページ作成
- 利用規約・プライバシーポリシー整備
- FAQ作成
3ヶ月目:集客準備
- Google Analytics設定
- SEO基本設定
- SNSアカウント開設
- メルマガ・LINE登録導線設置
ステップ4:モールから自社ECへの誘導を開始
ここが最も重要なステップです。楽天市場で獲得したお客様を、どうやって自社ECに誘導するか。
規約違反にならない5つの誘導方法
方法1:商品同梱チラシ
購入済みのお客様へのアプローチは規約上問題ありません。
【同梱チラシの例】
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この度はご購入ありがとうございます!
【会員様だけの特典】
公式サイトにご登録いただくと
次回使える500円クーポンプレゼント
▼ご登録はこちら
https://〇〇〇.com
━━━━━━━━━━━━━━━━
方法2:サンクスメール(購入後メール)
楽天市場の「購入後自動メール」に自社ECの案内を含めます。
方法3:LINE公式アカウントへの誘導
- 同梱チラシにLINE登録用QRコード
- 登録特典として500円クーポン配布
- LINE内で自社ECへの誘導メッセージ配信
方法4:メルマガでの段階的な誘導
購入後のフォローメールの中で、自然に自社ECを紹介します。
配信スケジュール例
- 購入直後:お礼+使い方のコツ
- 1週間後:商品の感想アンケート
- 2週間後:関連商品のご提案
- 1ヶ月後:「公式サイト限定10%OFFクーポン」
方法5:定期購入への誘導
定期購入は自社ECでのみ提供することで、自然な移行を促します。
ステップ5:データ分析と改善のサイクル
設定して終わりではありません。データを見ながら継続的に改善します。
必ず測定すべき5つの指標
- 自社ECへの誘導率
- 楽天市場購入者のうち、自社ECで購入した割合
- 目標:初月3%→3ヶ月10%→6ヶ月20%
- チャネル別新規顧客獲得単価(CAC)
- 楽天市場:広告費 ÷ 新規顧客数
- 自社EC:広告費 ÷ 新規顧客数
- チャネル別リピート率
- 楽天市場:20〜30%が一般的
- 自社EC:40〜60%を目指す
- チャネル別利益率
- 楽天市場:5〜15%
- 自社EC:25〜35%
- 自社EC売上比率
- 目標:6ヶ月で20%、1年で30〜40%
【成功事例】利益率を15%→26%に改善した化粧品EC
実際に私たちがサポートしたクライアント様の事例をご紹介します。
企業概要
- 業種:オーガニック化粧品の製造販売
- 売上規模:年商1.2億円
- 課題:楽天市場での売上は伸びているが利益が残らない
実施前の状況
年商:1.2億円(楽天市場100%)
粗利率:50%
楽天手数料・広告費:25%
その他経費:10%
営業利益率:15%(1,800万円)
実施した施策(12ヶ月)
- Shopifyで自社EC構築(1〜3ヶ月)
- 全購入者にLINE登録促進(同梱QR)
- LINE友だち向けに自社EC限定10%OFFクーポン配信
- 定期購入を自社ECのみで提供
- 楽天市場の広告費を段階的に削減
実施後の状況(12ヶ月後)
年商:1.2億円
├ 楽天市場:7,200万円(60%)
└ 自社EC:4,800万円(40%)
【楽天市場】
売上:7,200万円
粗利率:50%(3,600万円)
手数料・広告費:20%(1,440万円)
利益:2,160万円(利益率30%)
【自社EC】
売上:4,800万円
粗利率:50%(2,400万円)
手数料:5%(240万円)
利益:2,160万円(利益率45%)
全体営業利益率:26%(3,120万円)
→ 前年比+1,320万円(+73%)
同じ売上規模で、利益が1.7倍に増加しました。
よくある質問:モールからの自立について
Q1. 自社ECへの誘導は楽天市場の規約違反にならないですか?
A. 購入後のお客様へのアプローチは問題ありません。
NGな行為
- 楽天市場の商品ページに自社ECのURLを掲載
- 購入前のお客様に直接自社ECへの誘導を促す
OKな行為
- 購入済みのお客様へのメール・同梱物でのご案内
- LINE・メルマガでの情報提供
- 購入者限定の自社EC特典の案内
Q2. どのくらいの期間で効果が出ますか?
A. 早くて3ヶ月、本格的な成果は6ヶ月〜1年が目安です。
タイムライン
- 1〜3ヶ月:自社EC構築・誘導の仕組み作り
- 3〜6ヶ月:自社ECでの初回購入者増加(売上比率5〜15%)
- 6ヶ月〜1年:リピート購入定着(売上比率20〜40%)
Q3. 自社ECの構築にどれくらいコストがかかりますか?
A. Shopifyなら初期費用10〜30万円、月額3,000円〜で開始できます。
初期費用の内訳
- Shopify初期設定:無料
- デザインテンプレート:無料〜3万円
- ロゴ・バナー制作:5〜15万円
- 商品撮影・登録:5〜10万円
外注せず自社で対応すれば、実質0円でスタートも可能です。
Q4. 楽天市場の売上が減るのが怖いです
A. 実は自社ECへの移行で楽天市場の売上が減ることは少ないです。
理由:
- 楽天市場では「新規顧客」の獲得に注力
- 自社ECは「既存顧客」のリピート先
- 役割が異なるため、カニバリ(共食い)が起きにくい
むしろ、自社ECでのリピート購入により顧客生涯価値(LTV)が向上し、楽天市場での広告投資を増やせる余裕が生まれます。
まとめ:目指すべきは「賢い共存」と「選択できる自由」
「脱モール」という言葉の響きは、魅力的かもしれません。しかし、それは多くの場合、新たな苦しみへの入り口です。
本当に目指すべきは、ECモールという巨人の肩に乗りながら、その力を賢く利用し、同時に自分自身の足でも立てる強さを身につけること。つまり、本当の意味での『モールからの自立』です。
今日から始める3つのアクション
アクション1(今日):現状の利益率を正確に計算する
- 楽天市場での実質的なコスト(手数料+広告費)を算出
- 商品別・カテゴリ別の利益率を確認
- 10%を切っている場合は要注意
アクション2(1週間以内):自社ECのプラットフォームを決める
- Shopifyの無料トライアルを試す
- 必要な機能をリストアップ
- 構築スケジュールを立てる
アクション3(1ヶ月以内):誘導の仕組みを設計する
- 同梱チラシのデザイン作成
- LINE公式アカウント開設
- 自社EC限定特典の設計
私たちSBマーケティングデザインは、目先の「脱モール」を煽るようなコンサルティングはいたしません。
私たちが目指すのは、事業者様それぞれの状況や目標を深く理解し、ECモールと自社ECサイトの最適な組み合わせを設計することで、本当の意味での『モールからの自立』、すなわち「利益体質で、持続可能な事業構造」を共に作り上げることです。
もしあなたが、ただモールを辞めるという選択肢だけでなく、もっと賢く、戦略的に事業を成長させたいとお考えなら、ぜひ一度、私たちの無料相談にお越しください。
あなたの会社の「真のゴール」を、一緒に見つけるお手伝いをいたします。
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