第1回:オンライン市場の現実と「中小ブランドの勝ち筋」
多くのEC事業者、特に楽天市場やヤフーショッピングに出店されている中小企業の皆様は、日々、巨大な競合、特に大手ブランドとの厳しい戦いに直面していることと思います。「もっと売上を伸ばしたい」「でも、予算も人材も限られている」そんな悩みを抱えていませんか?
残念ながら、大手と同じ土俵で戦っていては、中小企業が勝つのは非常に困難です。彼らは潤沢な広告費、大規模な商品開発力、そして圧倒的な知名度を持っています。価格競争に巻き込まれれば、体力のない中小企業はすぐに息切れしてしまうでしょう。オンライン市場は、店頭のように限られた商品だけが並ぶ場所ではありません。文字通り、世界中のあらゆる商品がライバルとなる広大なフィールドです。その中で、お客様の目に留まり、選ばれるためには、これまでとは違う「中小ブランドならではの戦い方」が求められます。
このガイドでは、楽天市場やヤフーショッピングに出店する中小企業が、大手と異なるアプローチで成功するための戦略について、具体的な事例を交えながら3回にわたってお話しします。今回はその第1回です。
1. オンラインショッピングの厳しい現実:避けられない「大手との比較」
まず、厳しい現実からお話ししましょう。私たちは、オンラインの世界では常に「大手との比較」にさらされています。
楽天市場やヤフーショッピングといった巨大なECモールでは、お客様は様々な切り口で商品を比較検討します。
- 比較される主な要素:
- ランキングサイト
- モール内の検索結果
- 特集ページ
- レビュー
- 「人気順」「価格が安い順」「レビュー評価が高い順」など、様々な基準でのソート
お客様は賢く、そして冷徹に商品をふるいにかけます。あなたが普段オンラインショッピングをする際も、複数のショップや商品を比較検討するのが当たり前になっていませんか?それと同じように、お客様はあなたのブランドも日々、大手ブランドと比較しています。同じようなコンセプト、同じような機能、そして似たような価格帯であれば、最終的に選ばれるのは「聞いたことのある安心感のある大手ブランド」である可能性が高いでしょう。
これまで実店舗での卸売をメインとしていたブランドが、満を持して楽天市場やヤフーショッピングに進出し、魅力的な商品ページを作り、SEO対策も施したにもかかわらず、全く売れない…という話は後を絶ちません。それは、オンライン市場の特性、特に「比較の文化」を理解しないまま、大手と同じ戦略を取ろうとしていることに起因しているケースがほとんどです。
では、知名度も価格競争力も劣る中小企業は、どのようにこの厳しいEC市場を生き抜けばよいのでしょうか?その答えは、「大手とは異なるコンセプトで戦う」ことにあります。
2. 成功事例に学ぶ:大手と異なるコンセプトでニッチを掴む
私が以前コンサルティングを担当したある化粧品ブランドの事例をご紹介しましょう。
このブランドは、一般的な化粧品が「メイクで美しくなる」というアプローチをとるのに対し、全く異なるコンセプトを掲げました。それが、「すっぴん=美」という考え方です。そして、「美しいすっぴんを作りましょう」というメッセージと共に、そのための化粧品を開発・販売しました。
一見すると、「化粧品なのにすっぴん?」と疑問に思うかもしれません。しかし、考えてみてください。世の中には、以下のような多様なニーズを持つお客様がいます。
- 肌が敏感でメイクをあまりしたくない人
- 仕事やマナーとして仕方なく化粧をしている人
- 厚化粧が苦手でナチュラルな美しさを求める人
これらのお客様は、従来の「メイクで着飾る」というコンセプトの化粧品には、完全には満足していませんでした。
このブランドは、まさに「化粧をしたくない人」「化粧が苦手な人」という、これまで顕在化されていなかった潜在的なニーズを的確に捉えたのです。彼らの楽天市場やヤフーショッピングの店舗、そして自社ECサイトには、「化粧から解放されて肌がとても楽になった」「すっぴんに自信が持てるようになった」といったお客様からの喜びの声が溢れていました。
大手ブランドは、より大きな市場を狙うため、多数派のニーズに応える商品を開発・マーケティングする傾向にあります。そのため、このような特定のニッチなニーズは、見過ごされがちです。この化粧品ブランドは、大手が狙わないターゲットを明確に設定し、そこに特化したコンセプトを打ち出すことで、見事に成功を収めました。
この事例から学べるのは、お客様が商品を比較する基準は、単なる価格や最新の美容成分だけではないということです。お客様の心の中には、表面化されていない多様なニーズや価値観が眠っています。そこに光を当てることが、中小企業が大手と差別化し、独自の市場を築くための鍵となります。
3. 中小企業が「勝てる戦場」を見つける視点
「どうすれば売れるようになりますか?」「やはり楽天市場広告やヤフーショッピング広告にもっと予算をかけるべきですか?」 多くの楽天市場・ヤフーショッピング出店者の方から、このようなご質問をいただきます。もちろん、広告やSEO対策は重要ですが、それらはあくまで「手段」に過ぎません。その前に、もっと深く考えるべきことがあります。
それは、「お客様は日々何を考え、どんな基準で商品を選んでいるのか?」そして「どうすればお客様の目に留まり、興味を持ってもらえるのか?」という問いです。
お客様がどのような「景色」を見ているのかを理解し、その中であなたのブランドがどの「戦場」を選び、どのような「比較基準」で戦えば勝てるのかを、まず徹底的に考えるべきです。
例えば、多くのEC事業者が「楽天市場 送料無料」「ヤフーショッピング 最安値」といったキーワードで集客しようとしますが、これらは大手が得意とする土俵です。中小企業がここで戦うのは得策ではありません。
代わりに、以下のような視点で「勝てる戦場」を探してみましょう。
勝ち筋となる視点 | 具体例 | 楽天市場/ヤフーショッピング SEOキーワード例 |
特定のターゲット層に深く刺さるコンセプト | 肌荒れに悩む敏感肌向け化粧品、一人暮らしのコンパクト家具、オーガニックベビー用品など | 「肌荒れ 敏感肌 化粧品」「オーガニック ベビー用品 出産祝い」「一人暮らし コンパクト家具」 |
独自のストーリーや製造背景 | 職人手作り革小物、無農薬野菜の生産者直送、地域活性化プロジェクト商品など | 「一点物 ハンドメイド アクセサリー」「無添加 調味料 生産者直送」「伝統工芸品 ギフト」 |
特定の用途やシチュエーションに特化 | キャンプ飯の簡単キット、在宅勤務用の集中デスク、災害時持ち出しリュックなど | 「ソロキャンプ ギア」「テレワーク デスクチェア 腰痛」「防災グッズ セット」 |
大きな市場の末席を争うよりも、ニッチな市場でトップを目指す方が、はるかに大きな成果と収益性をもたらすはずです。オンライン市場は、確かに大手との比較にさらされる厳しさがありますが、一方で「ニッチなニーズを持つお客様と、それにぴったり合うブランドが出会える」という素晴らしいメリットも存在します。
大衆向けの商品を好む人がいる一方で、「人とは違う、自分らしい何か」を求める人も必ず存在します。楽天市場やヤフーショッピングという広大なプラットフォームを活用し、このような特定の需要を持つお客様にあなたのブランドを見つけてもらうことが、中小企業の生きる道です。
あなたのブランドが持つ独自のストーリーやコンセプトに共感してくれるお客様はどんな方なのか?あるいは逆に、あなたの狙うお客様はどんなコンセプトを求めているのか?お客様の視点に立ち返り、まずはそこをじっくりと考え、楽天市場やヤフーショッピングでのブランディングに反映させていきましょう。
では、具体的にどのようにしてその戦場を見つけ、お客様の心に刺さるコンセプトを設計すれば良いのでしょうか?第2回では、その具体的な方法について深掘りしていきます。