RMSと楽天GOLD、混同されやすい2つの仕組み
楽天市場に出店しているショップ運営者の多くが、「RMS」と「楽天GOLD」という2つの言葉を何度も目にするはずです。しかし、私たちがEC部門の責任者として15年以上の運営経験を通じて感じるのは、この2つの役割の違いが、いまだに正しく理解されていないショップが非常に多いということです。
「楽天GOLDをゼロから作り込めば、それだけで売上が伸びる」という過度な期待もあれば、反対に「RMS管理画面があれば、GOLDなんて必要ない」と切り捨てるショップもあります。実は、両者は異なる目的を持つ補完的なツール。この違いを理解し、適切に組み合わせるかどうかで、運営効率と訴求力は劇的に変わります。
本記事では、RMSとGOLDの本質的な役割から、2025年の仕様変更を踏まえた活用法、さらには運営体制別のおすすめパターンまで、実務で判断に使えるレベルで解説していきます。
※本記事に掲載している事例は、クライアントの特定を防ぐため、一部の数値や条件などを変更しております。
RMSとは?楽天店舗運営の”心臓部”になる管理システム
RMSでできる主な業務
RMS(Rakuten Merchant Server)は、楽天市場に出店する全店舗が使う基幹管理システムです。言い換えれば、楽天市場での店舗運営は、RMSなしには一日たりとも成り立ちません。
RMS内で行える主な業務は以下の通りです。
商品登録・編集:商品名、価格、説明文、画像などを登録・更新し、楽天市場に並べる商品ページを作成します。
在庫管理:商品の在庫数をリアルタイムで管理し、欠品や過剰在庫を防ぎます。複数の販売チャネル運営の場合、在庫の一元管理も行えます。
注文管理:顧客からの注文受付、発送処理、キャンセル対応、返品・交換手配などを一括処理します。
売上分析・レポート:日別・商品別・カテゴリ別などの販売データを確認でき、戦略立案に役立てられます。
メール配信:注文確認メール、発送通知メール、ポイント付与通知など、顧客対応に必要なメール自動配信を設定できます。
キャンペーン設定:クーポン発行、ポイントアップ、送料無料キャンペーンなどの販促施策を企画・実行します。
RMSの強みと限界(テンプレ制約ゆえのデザイン面の弱さ、失敗例を含めて)
RMSの最大の強みは、HTMLやCSSの専門知識がなくても、フォーム入力という誰にでも分かりやすい形で、必要な機能をほぼ全て実行できるということです。個人運営から小規模チーム運営まで、技術者がいない体制でも安定した店舗運営が可能になります。
私たちが支援してきたアパレル専門店も、当初は販売員2名で運営していたため、この「シンプル性」がRMSの大きな価値でした。商品の追加・削除、受注処理、顧客対応に集中できる環境は、スモールビジネスには必須です。
一方で、RMSには明らかな限界があります。テンプレートデザインに縛られるため、見た目の差別化が極めて難しいのです。
実際に経験した失敗例として、あるアパレル店舗がRMS標準だけで運営していた時期がありました。機能面では何の問題もなかったのですが、競合店舗と比べると「見た目」が明らかに劣っていました。その結果として、検索結果に表示されても、ユーザーのクリック率が伸び悩んでいたのです。
ちなみに、RMSで作成するページには文字数制限や利用できないHTMLタグがあるため、細かい表現をしようとしても実現できません。「もっと自由に、ブランドの世界観を表現したい」というニーズが生まれるのは、この段階です。
楽天GOLDとは?デザイン自由度を高める”拡張スペース”
楽天GOLDの役割(ファイルサーバー/HTMLページ置き場)とできること
楽天GOLDは、RMSとは独立したサーバー領域です。楽天市場が無料で提供する領域で、ショップはHTML・CSS・JavaScriptを直接記述して、自由なページを構築できます。
GOLDの主な役割は以下の通りです。
独自デザインのページ制作:テンプレート制約を受けず、ショップ独自の世界観を反映したトップページ、特集ページ、ランディングページ(LP)を構築できます。
ファイル格納スペース:最大1GBまで、画像・PDF・動画などのファイルを無料で保管できます。外部サーバー契約をしなくても、大容量ファイルの置き場として活用できるのです。
Iframe・JavaScript活用による拡張表現:アニメーション、スライドショー、カウントダウン、条件分岐など、ユーザーの目を引く動的な表現が可能になります。
化粧品販売店の事例を挙げると、ブランドのストーリーページと商品カタログPDFをGOLDに格納することで、RMSの容量圧迫を避けながら、豊かなコンテンツ表現ができました。スマートフォンからのアクセスも含め、訪問者の滞在時間が明らかに伸びたのです。
2025年時点のトップページ関連の終了スケジュール
ここで重要なのが、2025年に予定されている大きな仕様変更です。結論から言うと、トップページ制作機能は段階的に終了されますが、GOLD自体は継続利用が可能です。
具体的なスケジュール:
- 2023年12月末:スマートフォン版GOLDトップ提供終了(すでに完了)
- 2025年6月:RMS版PCトップ提供終了予定
- 2025年12月:GOLD版PCトップ提供終了予定
この後、全店舗は「新店舗トップページ」という楽天市場が提供する新しいテンプレートに移行する形になります。
ただし、ここが大切なポイントです。トップページの機能が終わるだけで、楽天GOLD自体は廃止されません。特集ページ、ランディングページ、画像ファイル置き場としての活用は、引き続き可能なのです。
実際、私たちが支援してきた食品卸売り業では、GOLD廃止のニュースに一度は不安を感じたものの、「特集ページはそのまま活用できる」と分かると、むしろ新トップページ対応に集中できるようになりました。
RMSと楽天GOLDの違いを比較 ── どちらが何に向いているか?
| 項目 | 楽天GOLD | RMS |
| 主な目的 | ページデザインの自由化・独自コンテンツ格納 | 日々の店舗運営全般 |
| HTML/CSS利用 | 可(JavaScriptも可) | 制限あり(簡易タグのみ) |
| アクセス解析 | 不可(別途ツール併用が必要) | 可能(管理画面で確認) |
| 無料枠 | 最大1GBまでサーバー提供 | 標準提供(機能全般) |
| トップページ対応 | 2025年末までに新トップページへ移行 | 2025年6月までに新トップページへ移行 |
| 特集・LP制作 | 高度なカスタマイズ可能 | 標準機能の範囲内 |
| 必要な知識 | HTML/CSS/JavaScriptの基礎知識 | フォーム入力中心で専門知識不要 |
| 操作方法 | FTPソフトでのアップロード | ブラウザのフォーム入力 |
RMS中心で十分なケース(条件を箇条書き)
以下のような条件に当てはまれば、RMS標準機能だけで十分です。
- 担当が少人数で技術者がいない:商品登録と受注処理が最優先で、デザインにリソースを割けない状況
- 商品登録・受注管理の正確さが最優先:ブランディングより、確実な運営を重視する方針
- スモールビジネス体制:個人運営や販売員2〜3名程度で、シンプルな運営フローで対応している
- デザイン差別化が未来のテーマ:当面は「市場への露出」より「販売の確実性」を優先したい段階
実は、これらのケースは「RMSだけで立ち上げる」という選択肢は十分あります。むしろ、焦ってGOLDに手を出して、更新負荷が増える方が危険です。
GOLD利用を検討すべきケース(条件を箇条書き)
一方、以下のようなケースはGOLD導入を検討する価値があります。
- 季節イベント用の特集ページをしっかり作りたい:バレンタイン、クリスマス、母の日など、季節施策に力を入れたい体制
- ブランド世界観を強く打ち出したい:商品の背景にあるストーリーやポリシーを、ビジュアルで伝えたい
- 競合との差別化に悩んでいる:クリック率や滞在時間を改善したい課題がある
- 外部広告の受け皿となるLPが欲しい:Google広告やSNS広告から流入ユーザーを、高いコンバージョン率で捕捉したい
- HTMLスキルがある、または予算をかけて制作会社に依頼できる:人的・金銭的リソースに余裕がある
楽天GOLDの実践的な活用シーンと事例
季節イベント特集ページの事例(バレンタインなど)
アパレル店舗のバレンタイン特集事例:
あるアパレル専門店がバレンタイン特集ページをGOLDで制作したケースです。RMS標準では単純な商品並列表示になるところを、GOLDでは「バレンタイン=ロマンティック」というテーマを一貫してビジュアルで表現しました。
具体的には:
- 高品質なイメージ画像を背景に配置
- JavaScriptでスライドショー機能を実装
- 「セール終了まで残り○時間」というカウントダウンタイマーを設置
- 商品ページへのリンク導線を視覚的に最適化
結果として、このページへの滞在時間は標準特集ページと比べて約3倍に達しました。さらに、ページから商品ページへの遷移率も向上し、売上にも直結しました。経営層も「ブランドイメージが伝わるようになった」と評価を変えたほどです。
ただし、ここで気をつけるべき点があります。「デザインを作り込む = 必ず売上が伸びる」ではないということです。重要なのは、ビジュアルと導線のバランスです。
ブランドページ/PDF置き場としての活用事例
化粧品販売店の事例:
化粧品販売店がブランドストーリーページとカタログPDFをGOLDに格納した例があります。
ブランドの成り立ち、製品開発のこだわり、成分説明などを豊かに表現する「ブランドストーリーページ」をHTML/CSSで制作。同時に、商品カタログPDFを1GBの無料容量に保管することで、外部サーバー契約のコストを削減できました。
訪問者はこのページを通じて、単なる「商品の販売ページ」ではなく、「ブランドの背景にある価値観」を理解できるようになります。結果として、リピート顧客の比率が向上し、顧客からの「詳しく説明してくれてありがとう」というポジティブなコメントも増えました。
デザインしすぎによる表示速度低下の失敗事例と学び
ここで正直に、失敗例も共有しておきます。
あるショップがGOLDトップページを「完璧に」作り込もうとしました。高解像度の大容量画像を大量に配置し、JavaScriptのアニメーションも多く実装。見た目は素晴らしかったのですが、ページの読み込み速度が極度に低下してしまいました。
その結果、スマートフォンからのアクセス時に「ページが重い」という理由で、ユーザーが離脱してしまったのです。Google Analyticsで分析すると、ページ表示から3秒以内の離脱率が60%を超えていました。
学び:デザイン自由度の高さは、同時に「運用負荷」と「表示速度」のリスクを伴うということです。
その後、画像の最適化、不要なJavaScriptの削減、キャッシュ設定の見直しを行ったところ、離脱率は30%台まで改善。売上も回復しました。つまり、「綺麗に作る」ことより「ユーザーの快適さを優先する」ことが、結果的に売上につながるのです。
RMS+楽天GOLD連携で運営効率と表現力を両立する
ヘッダー・フッター・サイドナビの共通パーツ化(GOLD+iframe)
RMSとGOLDを組み合わせるメリットの1つが、共通パーツの一元管理です。
ショップのヘッダー(ナビゲーション)、フッター、サイドバナーなどを、GOLD上の1つのHTMLファイルに集約し、RMS上の各ページからiframeタグで読み込む運用方法があります。
具体的には:
- GOLDに「header.html」「footer.html」というファイルを配置
- RMSの各ページ(商品ページなど)に「<iframe src=”https://gold.rakuten.jp/xxxx/header.html”>」という形でリンク
- 「年末年始の営業時間案内」「新作コレクション紹介バナー」などの更新が必要なときは、GOLD側のファイル1つを修正するだけで全ページに反映
この運用により、RMSの数百の商品ページを個別に修正する手間が大幅に削減されます。
特に、ペット用品販売店で「新しいブランドが入荷しました」というバナーを全ページに表示したいというニーズがありました。従来は商品ページ数分の修正が必要でしたが、この手法により、わずか1ファイルの修正で済みました。運用負荷は劇的に軽減されたのです。
クロスドメイン制限への注意点(GOLD側JSからRMS側を操作できない話)
ただし、ここで気をつけるべき制限があります。RMSとGOLDは異なるドメインで運営されているため、セキュリティの観点からクロスドメイン制限が設定されています。
簡潔に言うと、「GOLDで書いたJavaScriptから、RMS側の要素を操作することができない」ということです。
具体的な困りごとの例:
- 「GOLD側で書いたJSで、RMS側の商品ページ内の『カートに入れる』ボタンのスタイルを変更したい」→ できない
- 「GOLDのナビゲーション要素がRMS側のコンテンツと重なっていて、JSで高さを動的に調整したい」→ できない
実際、ある店舗が「GOLD側で商品ページのアニメーションをコントロールしたい」という要望を持っていましたが、クロスドメイン制限で実現不可でした。その代わり、「RMS側のページを触るしかない」という制限のある対応に限定せざるを得ませんでした。
この制限を事前に理解していることで、不必要な期待を避けられます。
アクセス解析の設計(RMS側/GA側の2パターン)
楽天GOLDで作成したページの効果を測定するには、別途アクセス解析ツールの設置が必須です。RMSには標準でアクセス解析機能がありますが、GOLDページの詳細なデータは取得できません。
2つの方法があります。
方法1:Google Analyticsを設置
GOLDで作成した全ページに計測タグを埋め込み、Google Analyticsで一元管理します。PV、滞在時間、参照元、コンバージョン率など、詳細な分析が可能になります。ただし、導入・設定に多少の手間がかかります。
実際にある日用雑貨販売店がGA導入後、「どの特集ページがユーザーの滞在時間を伸ばしているか」が可視化され、今後の企画判断に役立ったと言っていました。
方法2:分析用カテゴリ+iframeでRMSログに載せる
GOLDで作成したページにリンクを設置するとき、RMSの「分析用カテゴリ」を経由させることで、RMS管理画面のアクセスログに反映させる工夫です。ただし、詳細な行動フロー分析には向きません。
どちらを選ぶかは、店舗の分析リソースと予算感によって異なります。小規模店舗ならGA導入から始めるのが現実的です。
2025年以降を見据えた「新店舗トップページ」との付き合い方
新店舗トップページのメリット/デメリット
メリット:
- スマートフォン対応が最適化されている:楽天市場が最新のモバイルUXを前提に設計している
- テンプレートが用意されているため、HTML知識がなくても構築できる:RMSの管理画面から直感的に編集可能
- 運営負荷が軽い:複雑なコーディングが不要なため、更新作業が簡潔
デメリット:
- デザイン自由度が大きく下がる:これまでGOLDで実現していた、ユニークなビジュアル表現が制限される
- 競合との差別化が難しくなる可能性:多くの店舗が共通テンプレートを使うため、見た目の差別化が困難に
正直なところ、この変更をどう捉えるかは、店舗の運営方針によります。
楽天市場全体のトレンドを見ると、2025年時点でスマートフォン経由の売上が総売上の70%を超えるという実態があります。その中で、「モバイル最適化」を楽天が統一的に推し進める判断は、ビジネス的には合理的です。
むしろ、デザインの自由度を失っても、モバイルユーザーへの最適化が進むことで、「見込み客が取りこぼされる」リスクが減るのです。特に、日用雑貨やペット用品など、スマートフォンからの衝動買いを促す商材では、むしろプラスになり得ます。
運営体制別・おすすめ活用パターン
個人〜小規模(技術者なし)向け:RMS中心+GOLDは外注
担当が1〜2名で、HTMLスキルがない場合のおすすめ体制:
RMS:日々の商品管理、在庫管理、受注処理に専念
GOLD:特集ページやLPが必要になるたびに、外部の制作会社に依頼
月1〜2本程度の季節特集であれば、制作会社への外注コストと効果のバランスが取りやすいです。実際、アパレル販売店がこの体制で運用し、バレンタイン・クリスマス・セール時期の特集ページを外注で制作していましたが、月単位での売上増加を確認できていました。
ただし、制作会社の選定には注意が必要です。「楽天GOLDの実績が豊富か」「アフターフォローは手厚いか」を事前に確認することをお勧めします。
小規模・HTMLスキルあり:RMS+GOLDハイブリッド
担当が2名以上で、1名がHTMLの基本を理解している場合:
RMS:基本的な運営(商品登録、受注処理)
GOLD:FileZillaなどのFTPソフトを使い、自前でページを制作・更新
この体制では、月数時間の工数で特集ページの改善・更新を回すことができます。制作会社への外注より迅速な対応が可能になり、細かい改善サイクルが回しやすいです。
ただし、「HTMLスキルがある」ことが前提になるため、その人材の確保が課題になることもあります。
チーム運営(3名以上):RMS+GOLD+RMSコンテンツページを役割分担
中規模以上の運営体制では、3つのツールを役割分担して活用します。
- RMS:日々の受注処理、商品管理(事務スタッフが担当)
- GOLD:勝負ページ(ブランドページ、大型キャンペーンページ)を制作・管理(デザイナーやマーケターが担当)
- RMSコンテンツページ:更新頻度が高いセール・特集ページ(営業or企画担当が更新)
役割が明確になることで、それぞれが専門領域に集中でき、結果的に全体の効率が向上します。
まとめ ── 「RMSかGOLDか」ではなく、目的に応じて使い分ける
15年以上のEC運営経験を通じて感じるのは、RMSとGOLDの選択は、けっして「二者択一」ではないということです。
RMS = 毎日の店舗運営を支える、必ず必要なエンジン
GOLD = 差別化したいときの、表現・ブランディングの武器
この関係を理解できれば、運営の判断は随分シンプルになります。
「楽天で店舗を立ち上げた直後、デザイン予算がない」という状況なら、RMSだけで着実に運営を始めるのは、むしろ正解です。その後、「売上が安定してきた」「競合との差別化が課題になった」というタイミングでGOLDを検討しても、十分間に合います。
逆に「ブランド表現を最優先したい」という方針なら、初期段階からGOLDを視野に入れ、制作会社との協力体制を構築する価値があります。
2025年の仕様変更を前に、多くのショップが「トップページはどうするか」という判断を迫られています。ここで大切なのは、新店舗トップページ対応は必須としながらも、「特集ページ・ランディングページの訴求力」は引き続きGOLDで強化できるという事実です。
つまり、新トップページへの移行は「ブランディングの終わり」ではなく、「役割分担の再定義」に過ぎないということです。
目指すべき運営形態は、「新店舗トップページ+RMS+GOLD」の3つを、各ショップの体制と目的に応じて組み合わせ、楽天市場での競争力を継続的に高めることに他なりません。
2025年を機に、自社の運営体制と目指す方向を改めて整理し、前を向いて進んでいただきたいと思います。
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