楽天市場の売上を左右する「二重価格表示」の罠。景品表示法違反にならないための正しい知識

はじめに

楽天市場で売上を伸ばすために、セールや割引は非常に強力な武器です。しかし、その「価格表示」、本当に大丈夫ですか?

「この価格ならお得だ!」とお客様に感じてもらうための二重価格表示ですが、ルールを正しく理解していないと、意図せず法令違反や楽天市場の規約違反を犯してしまう可能性があります。

2023年10月からはステルスマーケティング(ステマ)が景品表示法の規制対象になるなど、消費者を保護する動きは年々厳格化しています。違反した場合、課徴金などの重いペナルティが課されるだけでなく、楽天市場からの評価ダウン、最悪の場合は退店処分につながることも。そして何より、お客様からの「信頼」を失うことが最大のダメージとなります。

この記事では、消費者庁が定める「景品表示法」の基本から、楽天市場独自の「二重価格表示」の具体的なルールまでを網羅的に解説します。正しい価格表示は、ペナルティを回避するだけでなく、顧客満足度を高め、結果的に店舗のSEO評価を向上させることにも繋がります。自店の価格表示を再点検し、お客様に信頼される店舗運営を目指しましょう。

1. なぜ今、価格表示のルールが重要なのか?景品表示法の基本

まず、すべてのEC事業者が理解しておくべき法律が「景品表示法(景表法)」です。これは、商品やサービスの品質、内容、価格などを偽って表示することを規制し、消費者がより良い商品を自主的かつ合理的に選べる環境を守るための法律です。

景表法で特に注意すべきなのが「不当表示」で、大きく分けて以下の3つがあります。

① 優良誤認表示:商品の品質を実際より良く見せる表示

「カシミヤ100%と表示していたが、実際は30%しか含まれていなかった」「他社の従来品より2倍長持ち!と謳っていたが、合理的な根拠がなかった」といったケースがこれにあたります。ECサイトでは、商品の効果効能を過剰に表現してしまうことがないよう、客観的な根拠に基づいた表示が求められます。

② 有利誤認表示:取引条件を実際より有利に見せる表示

今回のテーマである「価格表示」で最も関係が深いのがこの有利誤認表示です。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 不当な二重価格表示:「通常価格10,000円→セール価格5,000円!」と表示しているが、そもそも「10,000円」で販売した実績がほとんどない。
  • キャンペーンの誤認:「本日限定価格!」と表示しているが、実際には毎日同じ価格で販売している。
  • 限定数量の誤認:「先着100名様まで!」と謳っているが、実際には100名を超えても同じ条件で購入できる。

これらの表示は、消費者に「今買わないと損だ」という誤った認識を与え、不公正な取引を誘発する可能性があるため、厳しく規制されています。

③ ステルスマーケティング(ステマ)規制

2023年10月1日から新たに規制対象となったのが「ステマ」です。これは、事業者が第三者を装って自社の商品やサービスを宣伝し、広告であることを消費者に隠す行為を指します。

例えば、インフルエンサーに金銭を渡して商品のPRを依頼したにもかかわらず、その投稿に「#PR」「#広告」といった表記をせず、あたかも個人の感想であるかのように見せるケースが典型例です。これも消費者の自主的かつ合理的な商品選択を阻害するものとして、不当表示の一種とみなされます。

2. 【最重要】楽天市場における二重価格表示の具体的ルール

景品表示法の基本を踏まえた上で、楽天市場が独自に定めている「二重価格表示」のガイドラインを詳しく見ていきましょう。楽天市場では、消費者に誤解を与えないよう、比較対照となる「元の価格」について厳格な条件を設けています。

「当店通常価格」や「セール」と表示するための条件

セールなどで割引前の価格として「当店通常価格」や「通常販売価格」といった表記を用いる場合、その価格には「最近相当期間にわたって販売されていた実績」が必要です。

楽天市場のガイドラインでは、この条件を以下のように具体的に定めています。

【原則】セール開始前の8週間のうち、通算で4週間以上、その価格で販売実績があること。

ただし、販売期間が短い商品など、この原則を満たすのが難しい場合のために、以下の特例も認められています。

【特例】

  • 販売期間が8週間に満たない商品の場合:販売期間の過半かつ通算2週間以上、その価格で販売実績があること。
  • 販売開始から2週間に満たない商品の場合:二重価格表示は認められない。

▼具体例で考えてみよう

8月1日から開催される「お買い物マラソン」で、ある商品をセール価格で販売したいとします。

  • OKなケース◎:6月1日~7月31日の8週間で、合計4週間以上「当店通常価格」として表示したい価格で販売していた。
  • NGなケース×:セール直前に数日間だけ価格を吊り上げて、それを「当店通常価格」として表示する。
  • NGなケース×:過去に一度もその価格で販売したことがないのに、架空の「当店通常価格」を設定する。

このルールを破ると、景品表示法の有利誤認表示にあたる可能性が非常に高くなります。

「メーカー希望小売価格」を表示する場合

「メーカー希望小売価格」は、製造業者(メーカー)が設定し、自社のカタログやウェブサイトなどで公表している価格を指します。これを比較対照価格として表示する場合は、以下の点に注意が必要です。

  • 現行商品であること:その価格が現在もメーカーによって公表されている必要があります。旧モデルの古い価格などを表示することはできません。
  • 客観的な根拠があること:メーカーのカタログや公式サイトのURLなど、その価格が客観的に確認できる資料を提示できるようにしておく必要があります。

自社で勝手に「希望小売価格」を設定することは、もちろん認められません。

やってはいけないNG表示例まとめ

楽天市場で特に注意すべき、違反となりやすい価格表示の例をまとめました。自店のページに当てはまるものがないか、今一度チェックしてみてください。

  • × 架空の通常価格:販売実績のない価格を「当店通常価格」として表示する。
  • × 短期間だけ吊り上げた価格:セール直前に一時的に値上げし、それを元値として表示する。
  • × あいまいな表現:「市場価格」「他店参考価格」など、根拠の不明確な価格を比較対照にする。
  • × 割引率の偽装:実際よりも割引率を高く見せるために、元値を不当に高く設定する。
  • × 恒常的なセール表示:「本日限定」「タイムセール」と表示しながら、毎日同じ価格で販売を続ける。

3. 違反した場合のリスクとは?

もし、景品表示法や楽天市場のガイドラインに違反してしまった場合、どのようなペナルティが待っているのでしょうか。

景品表示法違反の罰則

消費者庁から有利誤認表示と認定された場合、事業者には措置命令が出されます。これは、違反行為の取りやめ、再発防止策の実施、一般消費者への周知徹底などを命じるものです。

さらに、悪質なケースでは課徴金納付命令が出されることもあります。課徴金の額は、原則として不当表示に関連する商品の売上額の3%と定められており、事業者にとって大きな金銭的負担となります。

楽天市場のペナルティ

楽天市場は、独自のガイドライン違反に対して「違反点数制度」を設けています。違反の内容に応じて点数が加算され、累積点数が一定基準を超えると、以下のような厳しいペナルティが科されます。

  • 検索表示順位のロジックダウン
  • ランキングへの掲載制限
  • RMS(店舗運営システム)の一機能停止
  • 最悪の場合、契約解除・退店処分

特に「検索表示順位のダウン」は、店舗の売上に直接的な打撃を与えます。

4. SEOにも影響?信頼を勝ち取るための正しい価格戦略

「ルールが厳しくて面倒だ」と感じた方もいるかもしれません。しかし、これらのルールを守ることは、単にペナルティを回避するためだけのものではありません。長期的に見て、店舗のSEO評価を高め、売上を安定させるための重要な戦略なのです。

楽天市場の検索アルゴリズムは、売上や転換率だけでなく、ユーザーレビューや顧客満足度も重要な評価指標としていると言われています。

  • 不当な価格表示を行う店舗 → お客様は「騙された」と感じ、低評価レビューを付ける可能性が高まる → 店舗評価が下がり、転換率も悪化 → 楽天市場内での検索順位が下がる。
  • 誠実な価格表示を行う店舗 → お客様は納得して購入し、満足度が高まる → 高評価レビューが増え、リピーターにも繋がる → 店舗評価が上がり、転換率も向上 → 楽天市場内での検索順位が上がる。

つまり、「誠実さ」や「信頼性」が、巡り巡ってSEO対策になるのです。目先の売上を追って不当な表示に手を出すのではなく、適正な価格設定と正直な情報提供を徹底することが、お客様に選ばれ続ける店舗への一番の近道と言えるでしょう。

まとめ:信頼こそが最強の販売戦略

今回は、景品表示法と楽天市場の価格表示ルールについて詳しく解説しました。

  • 景品表示法は、消費者を守るための国の法律。特に「有利誤認表示」に注意。
  • 楽天市場の二重価格表示には、「最近相当期間」の販売実績など具体的なルールがある。
  • 違反のリスクは、課徴金や退店処分など非常に大きい。
  • 正しい価格表示は、顧客の信頼を獲得し、結果的にSEO評価を高める。

セールやキャンペーンは、お客様に喜んでもらうための素晴らしい施策です。その善意が、知識不足によって裏目に出てしまっては元も子もありません。

この記事を参考に、今一度自店の価格表示を隅々までチェックしてみてください。そして、お客様との信頼関係を第一に考えた、誠実な店舗運営を心がけていきましょう。その積み重ねが、楽天市場での成功を確かなものにするはずです。